新作を出さない僕らに関する２，３の事柄
（お詫びと言い訳だけのために、こんなものを作ってしまいました）
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ずいぶんと久しぶりに書く原稿となってしまった。1996年冬コミ以来、何も発表していないのだから仕方がないのだが、少数でも僕らの新作を待ってくれている人がいると思うと、さすがに申し訳ない気分になってしまう。ということで、今回はなぜ新刊が出ないのかを書いてみることにした。だからそんなことに興味のない人は読み飛ばしていただきたい。
ことの発端は前作「超音速のナークツインズ 1991-1992」の発刊だった。内容が内容なのでナークツインズの中では最も売れず反応のなかった本だったが、実は８年前、始まったばかりのナークツインズにとって、この本を発刊することは最終目標であったのだ。 「非実力派宣言」、「レディメイドのナークツインズ」に続いて1992年に完成するはずだった「超音速」。この３冊はまったく違う本なのだが、異母兄弟と言うか、同じ場所を出発点とした本だ。当時の僕はこの３冊を発刊したらナークツインズを終わらせようと本気で思っていたぐらいだ。
だが「超音速」は色々こね回しすぎて中断、その後仕切り直しをしてようやく96年に発刊にこぎつけた。作っている間に色々ありすぎたので、本当にこぎつけたと言うのが実感だった。おかげで「超音速」の完成後の僕ら二人ときたら、その達成感でしばらくは何にもやる気が起こらないという始末だった。
それでも97年に入って、色々試してみた結果、春には新作「レディメイドバージョン２：Testament」を高原が作り、僕は長編のシナリオを一本書き上げた。しかし高原のは出来が悪いし、僕の長編は全くナークツインズで使えるようなネタでないので、結局両方とも僕が没にしてしまった。
「Testament」については、一人で作りたいと言ってきた高原に全部任せたのだが、どうやら高原に不向きな内容だったらしく、完全な失敗に終わってしまった。
僕の長編は、もちろんナークツインズ用を前提に書いたのだが、その内容では高原には描けないだろうなというシナリオだった。自分で言うのも何だけど。まあ無理を承知で好き勝手に書いたら、やはり理想と現実のギャップが大きかったというところです。内容についてはとても恥ずかしいのでここでは書けません。
作品を完成できない原因は「超音速」完成後のナークツインズに明確なビジョンがないことだ。やりたいことはあるのだが、二人共同で熱中して作りたいことが見つからないのが原因だと僕は思っている。それを探すのがプロデューサーとしての僕の仕事なのだろうが、妥協したものを作りたくはないし難しいところではある。お互い好き勝手にやりすぎたことは少し反省しているが。
そんなふうに次の一手をどうしようと時間を費やしていたら、なんと高原が病気になってしまった。自律神経失調症らしいので命には別状はないが、まともに絵が描けない。全く描けないわけではないが、商業ベースの作業は無理な状況である。さすがにこれにはまいった。それから１年ほとんど状態は改善していない。今は以前よりも悪化していると言っていい。
こうなってしまうと高原はまともに仕事もできず、自信とやる気が失せていく一方だし、僕もどうしていいのか分からなくなってしまう。だからこの１年は作品と言えるものは一切作っていないし、作り始めることさえほとんどなかった。1996年冬コミ以降、ナークツインズの新作ができないのはこんな理由です。なにしろ僕ですら高原が描いた絵をこの半年見ていない位ですから。
現在の高原ははっきり言って単なる無職のアル中なので、これまでと同じようにナークツインズを維持するためには、僕が洒落にならない位の負担をしなければならず、正直なところナークツインズは消滅一歩手前と言える状態になっている。だから今のところ新作の約束はできないし、出せたとしてもこんなコピー誌程度のことしかできません。
それでも現時点で僕はナークツインズを解散させるつもりはないし、何時になるかは分からないがナークツインズを一人前にしたいと思っていることに変わりはない。とりあえず僕が（高原ではない）、ナークツインズでやると言ったことについては、遅くなったとしても全て実行しているつもりなので、今回も何とかしたいとは思ってはいるのだが。
今回のプロダクションノートはこの文章以外に、1995年（「禁猟区のナークツインズ」完成後）に書いた「非実力派宣言」のライナーノーツを当時書いたままに掲載した。未発表のまま、何時か使おうと思って放り出されていたものだが、これを使わないといけない位、何も出来ていないのが今のナークツインズの現状なのである。
ＧＯ２
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■「非実力派宣言」ライナーノーツ
London-Paris-Tokyo1991-1992;LINER NOTES part-1 |
「非実力派宣言」はプロデューサー・後藤とライター・松本淳のデビュー作である。だからもちろん、西崎まりの＝高原とのコンビネーションであるナークツインズもこれが最初になる。一人でプロデューサーとライターの名前を使い分けたのはただの気紛れだった。
本のプロデュースをやってみたいと思うようになったのはいつの頃からだろう。西崎まりのや何人かの漫画家を友人に持つようになり、彼らの漫画を描く姿を見てはいたが、あまり自分が何かを書きたいという気にはならなかったし、なったとしてもすぐに飽きて放り出してしまっていた。彼らとは違って自分にはそういった欲求がなくて、それはそれで悪い事だとは思っていなかった。だがいつの頃からか、作品と言うものは作者だけが作るものではないということに気付き、自分がやりたいことは多分それなのだと思うようになっていた。作品をグレードアップするための作者以外の視点、読者とより幸せな出会いになるべき手段の選択。その他、全てのファクターのバランスを考え判断していくプロデューサーというスタンス。それは昔から漫画より好きだった音楽のせいだと思う。自分が特に好きなレコード、その多くに有能なプロデューサーのクレジットがあった。ジョージ・マーティン、ジョン・サイモン、細野晴臣・・・。
だが残念ながら「非実力派宣言」ではプロデューサーとしてやりたかったことは全くと言っていいほど出来なかった。当時の西崎まりのに強制的に何かをやらせようとしたら、衝突して前に進まなくなるのは分かっていたし、そんなことをしたらへらず口を叩いて企画倒れに終わってばかりいた昔と同じになってしまっただろう。成り行きで作ることになった本だが、作るとなった以上はそんないい加減なことだけはしたくはなかった。だから仕方ないので無いに等しい存在だった松本淳という自分の尻を叩いて、とりあえず「非実力派宣言」の核になるべきものを書いて西崎まりのにプレッシャーを与えることにしたのだ。こちらが原稿を上げれば、いくらなんでも描き始めるだろうという計算である。これが 「非実力派宣言」においてプロデューサーが行なった唯一、大きな行為だった。後はどんなものが出来上がろうとお構いなし。とりあえず完成させることが第一だった。そんなわけだから、今でも自分には何かを描きたいといった創作意欲は殆どない。「非実力派宣言」の原稿を描くということは、長い夏休みの宿題を仕上げているようなものだった。だからといって適当なところで簡単に終わらせるつもりはなかった。そもそもプロデューサーとして、自らの手抜きを認めるわけにはいかない。今でもナークツインズが続いているのは、こんなこだわりがあるからだろうか。
森高千里は当時お気に入りだったバンド、カーネーションがバックを努めたことをきっかけに注目し始めた。アイドル＝偶像を確信犯として演じ、そのくせ詞作によって見事に表現者になりえている森高。これはロックだと思った。しかも上級の。それからはカーネーションそっちのけでファンになってしまった。「非実力派宣言」や「古今東西」は最高なＬＰだったし、「臭いものにはフタをしろ!!」は全ての面において見事なまでにロックだった。今の森高は大人になって昔ほどの面白さはないけど、今でも好きな歌手であることに変わりはない。
松本淳としては当時、「否定」からの肯定、「否定」した中から見えてくるものにこだわっていたように思う。森高のパロディは「アルマーニャ」だけで、それ以外は書くことだけで精一杯で森高どころではなかった。そういう意味ではこの本の西崎はよくやったと思う。あと「だいて」は死ぬほど書き直しはした。四カ月間、五行書いては四行書き直す毎日だった。今でもそうだが、とにかく文章が下手だった。
今回の再版の書き直しは必要最少限にとどめた。二人とも書き直したいという欲はあるのだが、プロデューサーとして当時全力で作り上げた形を今の気分だけで変えてしまう事に抵抗があった。どうせそんなことをしても、一年もすればその書き直しをまた書き直したくなるに決まっている。そんなことで下らない回り道をするくらいなら、下手で物分かりの悪いあの頃の自分たちを認めてしまおうと思う。今とは明らかに違う、プレ・ナークツインズと呼べる作品だが、それも二人には必要な行程だったのだろう。書き直す時間があるくらいならば他にやるべきことが沢山あるはずだ、たぶん。
ナークツインズ 後藤
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非実力派宣言の再版に寄せて |
いろんな意味で面白い本だと思う。もちろん出来の善し悪しから言えば不満の残る部分があるのは当然としても、ナークツインズの制作スタイルにおける原型がうかがえるのが楽しい。今回の再版にあたり若干の変更を加えたが、これは当初描こうとした意図が十分に表現しきれていないイラストを何点かリメイクし、全編にわたってばらばらに付けられていたクレジットを統一するなど、明確な意図に基づくことなく作られてしまったケアレスミスに該当する部分を修正するにとどめた。そう、あの頃はまだちゃんとした本を作れないくらい幼かったのだ。共作ユニットとしてのナークツインズをきちんと認識していなかったため、プロデューサーであり共作パートナーでもある後藤には大変な迷惑をかけてしまった。何かを作ろうとするときには、何を作ろうとしているかがわかっていないとダメだということ。何が好きで何が嫌いかを知らなければいけないということ。そんなことさえよくわかっていなかったのだ。
当時を振り返って考えると森高千里本人は嫌いだった。ただアイドルを売り出していくスタッフワーク、そのプロデュース方法が面白くて見ていただけだった。まさしく着せ替え人形としか思っていなくて、それがこんな話を作るもとになったのは皮肉なものである。「私の夏」ＪＡＬ沖縄キャンペーンのＣＭあたりからはけっこう森高も良いなと思えるようになってきたのだけれど、それまでの森高は森高千里ではなく別のキャラクターが演じていた人形みたいなものだった。要するに実在のアイドルをもとにした不在のヒロインを描いていたのだ。あの頃はそういうフェイクが好きだった。カーネーションにしても「ヤングワイズメン」「ゴングショウ」「エレキング」とここまではよく聴いたし、今でも聴いているのだけれど「天国と地獄」は一回聴いたきりでほこりを被っている。「モーレツな人 モーレツな恋−うちにかぎってそんなことはないはず−」での森高のボーカルなんかすごくキュートで可愛くてとても良かった。そんな森高とカーネーションの蜜月期が終わると共にカーネーションを聴かなくなってしまったのは不思議なものである。多分そこに何かを感じて魅かれていたはずなのにそれに気づいた時には季節が変わっていたというところだろうか？「非実力派宣言」もまたそんな季節が移り変わる前のわずかな時期に作られた本だった。オーバープロデュースによって作られたアイドルに魅かれることはもうないだろう。今は森高自身がそうであるようにナークツインズもナチュラルなスタンスでいると思う。今回の再版で描き直したイラストは当初の意図をなるべくストレートに伝えられるようナチュラルさを心がけた。あざとい受け狙いなど、もはや不要だ。１７才の夏が終わり、ナークツインズにとっての新しい夏が、もう一つの夏が来ようとしている。
願わくば僕にとってカーネーションの３枚のアルバムがそうであるように読者にとっても「非実力派宣言」が繰り返し読まれる本であって欲しい。
文；ナークツインズ 高原
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