「華氏32度」ライナーノーツ![]() |
「技術においては、(1)すべてを行なうことはできない。(2)成功する方法はいくつか存在する。という原則がある。他より少し資金のかかる方法、時間のかかる方法はあっても、解決法は決してひとつではない。もし可能であれば、5つの可能性を試してみるのがいいかもしれない。しかし、それには多くの時間と資金が要求される。私の仕事は、仕事のスピードを保ちながら、与えられた資金をよりうまく使っていくこと。この分野の研究か、あの分野の研究か、あるいは両方か。しかし、3番目の研究には決して力を分散しない。どこに人間を配置するか、そしてどこに資金を注ぐか、それを見極めるのが私の責任だ」/ベルナール・デュド;ルノー・スポーツ、テクニカル・ディレクター
「華氏32度」は、前作「禁猟区のナークツインズ」の完成直後の94年春に制作が開始された。「禁猟区のナークツインズ」完成以前から次の作品のアイデアはいくつかあったが、その中からビザールイラスト集、後に「華氏32度」と名付けられるアイデアが採用されることになった。 ビザールイラスト集に決めた理由は、ナークツインズの第1作「非実力派宣言」でのビザールファッションのイラストが、描いた高原本人にとって中途半端で不満の残るものだったこと。 「禁猟区のナークツインズ」が僕、後藤の嗜好が比較的(あくまでも比較的)前に出た作品だったので、今回は高原の趣味で好きに作ってもらおうと僕が考えたこと。今回僕は原稿を書くつもりが全然なくて、プロデューサーとしてチェック作業だけを行ない、後は全部高原にやってもらおうと目論んでいた。もともと僕はビザールとかボンデージとかは、大好きなわけではなかったし。 それからもうひとつ、イラスト集ならばいくら遅くても半年後の冬コミに間に合うだろうという計算があったこと。そしてこの打算は見事にと言うか、予定通りと言うかあっさり崩れてしまうのだが。 制作を始めてから何枚かの下絵を高原が描いた段階で、文章を付けて詩画集の体裁をとることになった。高原が文章がないと絵のイメージができないと言うからだ。もともと彼は絵と文章からなる絵物語の構成が好きな人間なので、それはそれで仕方がない。もちろん僕は書くつもりがないので、とりあえず高原が書くことになった。 だがここからがナークツインズのナークツインズたるところだ。高原が書いた原稿はお世辞にも出来の良いものではなく、未完成の意味不明の詩でしかなかった。実はその詩は、彼が「華氏32度」の元のイメージとなったデビッド・ボウィのアルバム「ピンナップス」の訳詞を切り貼りして、でっち上げたものでしかなかったので意味不明なのも当然なのだった。 だがそれに気づかない僕はまんまと騙されてしまい、原稿の全面的な書き直しを始めてしまったのである。原稿のチェックはプロデューサーの仕事だ。僕にしてみれば、高原が昔の悪い癖を出して意味不明としてしまった出来の悪い原稿をわかりやすく解読している感覚だったのだが、最終的にはかなりの原稿を書くはめになってしまった。 共同作業の多いナークツインズならではの変な作業だったが、結果オーライで出来には満足している。 文章はこんな調子で短期間のうちに完成したが、イラストの進行の方は最悪だった。なにしろ最終的に32枚のイラストを描き、本を完成させるのに、10ヵ月掛かってしまったのだから。しかも仕事より「華氏32度」制作を優先させて10ヵ月である。 当然のごとく、大量の書き直しや没原稿が出た。もちろんそれはプロデューサーの判断として書き直しや没を出したのだが、その量は前作「禁猟区のナークツインズ」の比ではなかった。 理由はいくつかあるが、自分自身の趣味を高原が絵にする方法を知らなかったことが一番大きかったと思う。自分の趣味を絵にすることは、自分の好き勝手に描くということとは違う。必ず一度は客観的に自分の描いたものを見る必要がある。そうでない人もいるが、少なくとも彼には必要なことだった。それができていなかったから、昔描いた原稿を何度も書き直すなんてことをやっていたのだと思う。 今回の没原稿にしても完成稿と比べれば、明らかに方向の異なるイラストだという理由で没になったものがほとんどだ。高原がどんなふうに書けば良いのか分かっていなかったことが、今見れば良く分かる。 結果的には「華氏32度」では書き直しや没原稿を出すことで、自分の描きたいものに近づけていく、つまり客観視する作業を進めていったのだと思っている。ただ自分のプロデュースがもっとうまければ、よりスムーズな進行ができただろうから、僕にも反省すべき点は沢山ある。どうもコンセプチュアルなものにしたがるのは、僕の悪い癖のようだ。それで作業が遠回りしてしまうことがある。 今回も原稿を書いたり、プロデューサーとして高原のイラストのチェック(僕が自分で描き直したりすることもあった)をしたりもしたが、僕が今回最も力を入れたのはページ構成、いわゆる台割りの作業だった。 「華氏32度」をイラスト集ではなく本全体を一つの作品として制作していこうと考えたとき、どういった構成・どういった流れにするかが大きなポイントになった。そのため構成上、新たにイラストを描き下ろす必要が出てきたり、やむなく没にするものも出てきた。逆に思い通りのイラストができないと、文章の書き直しや構成自体の変更も余儀なくされた。それは曲順を決めるために悩んでいるDJみたいな作業だった。 そんな作業の末、大量の没イラストと何度ものページ構成の修正を経て「華氏32度」は完成した。 この書き直しや没は高原の描きたい世界をきちんと本という形に定着させたいプロデューサーとしての努力なのだが、その結果「華氏32度」は、高原の趣味の本ではなく見事にナークツインズの本へと変わっていくことになった。 けれど高原の描きたかった世界を良質な形でまとめることができたと僕は思っているし、彼も結果には満足しているはずだ。ただ二人で創作することは、具体的な共同作業の有無に関わらずナークツインズという見えない影響力が働いてしまう。それはナークツインズというもう一つの人格と言ってもいい。だからこそ「華氏32度」は正真正銘ナークツインズの本になってしまったのだ。それはそれで喜ばしいことなのだと思う。 僕はいつも後藤でもない高原でもない、ナークツインズの作品を見たいと思っている。ナークツインズがより高い所へたどり着けるためにプロデュースをしたいと思っている。だから僕にとってはナークツインズがナークツインズでありさえすれば、僕自身が書く必要なんてどこにもないし、高原が書く必然性さえないのかもしれない。 ただこれまでの僕は、自分のプロデューサーとしてのポジションにこだわりを持ちすぎていたようだ。僕がきちんとプロデュースしたものでないとナークツインズではないだとか、以前は考えていたりもしたが、最近はもっと緩やかな枠でナークツインズを見ていこうと思っている。 僕がプロデュース作業をやったものについては僕のプロデューサークレジットを付ければよいし、プロデュース作業をせずに気楽に作ったものはプロデューサークレジットを付けなければよいということだ。プロデュース作業をしなかったために下らないものを作ったとしても、それはそれで許してもらうことにしよう。 毎回時間のかかるナークツインズだが、もっと沢山の作品をプロ・アマ問わず早く発表していきたいとはいつも考えている。アシスタントがいないとか労力の問題もあってなかなかうまくいかないが、そろそろ期待には応えたいと思っている。 最後に「華氏32度」のタイトルについて。華氏32度とは摂氏0度。水でも氷でもない、液体と固体ぎりぎりの冷たく不可思議なイメージ。ブラッドベリー=トリュフォーのことは、高原から指摘されて始めて気がついた。パロディのつもりでもなんでもなかった。 むしろパロディと言うならば「華氏32度」の中では「禁猟区'95」と名付けられた詩のほうがふさわしい。小西康陽がかつて2度使った、前作のアルバムタイトルを次のアルバムの曲のタイトルにするというアイデア。詩なんて書くつもりさえなかったのに、同じことをやってみたいという思い付きだけで 「禁猟区'95」を書いてしまった。本当は元ネタにちなんで「新禁猟区」というタイトルにしたかったのだが、かっこ悪いのでやめた。またいつかどこかで、このアイデアは使うことがあるかもしれない。 ナークツインズ 後藤 ![]() |
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「華氏32度」のヒロイン、森山麻実子のことを考えてみた。彼女のプロフィールは「華氏32度」に書かれているとおりなのだけれど性格や趣味はどうだろう?パーティが好きで取り巻きの男友だちは多そうだ。バーカウンターのスツールに腰掛けてフィズを飲みながら笑っていたりしても、どこか醒めている。キスが好きで男友だちとよくふざけてしたりするけどそれ以上の関係にはならない。低血圧で朝寝坊。気分の重い日はふらりと映画を見に行ってポップコーンを頬張っている。退屈な二流のメロドラマは嫌い。きっと「マディソン郡の橋」を封切りで見に行くなんてことはしない。夜アパートに帰ってきたとき、留守番電話に一件も登録されてないと機嫌が悪い。長電話が好き。ダイヤルQ2のアルバイトをしたこともある。一人で部屋にいるときはビデオを見るか音楽を聴いている。ビデオはもっぱらアクションものが好きだけど、スタローンは嫌い。音楽は洋楽中心だけど、実は中森明菜のファンでカラオケは全曲歌える。TVは見ない。TVをつけるのは洗濯をしているときだけ。洗濯は好きでいつもこまめにしている。でも料理は下手。目玉焼きさえうまく作れなくてイライラする。食事は男友だちと一緒に外食するか、コンビニの弁当で済ます。最近はエスニック料理に凝っていて、特にタイ料理が好き。服はブランドものにこだわったりはしないけれど、基本的にはトラディショナルなスタイルが好き。ミニもはきたいのでダイエットしなくちゃとは思っている。だからといってスポーツはしたくない。スキーは一回やっただけで懲りた。高校ではテニス部だったにもかかわらずサボってばかりなので全然下手。男友だちとクラブにでも行くほうが楽しい。今つきあっている彼ともクラブで知り合った。ルックスが良かったし、音楽の趣味も割に共通するところがあって盛り上がったから「まあいいかな」と思って、アパートの住所と電話番号を教えたら早速翌日電話があってデートした。ジャケットの胸ポケットにいきなり白いバラを差し込んで「プレゼントだよ」って言うから、気障な奴だなと思ったけど今までそんなことをする人はいなかったので本当はちょっと嬉しかった。第一京浜から湾岸線に入って葛西へ。ディズニーランドに行きたかったんだけど、彼の趣味に合わせて水族園に入ることになってしまった。海を見るのは久しぶり。実家の逗子にいた頃はよく湘南の海で遊んでいたのに。水上バスの桟橋から海岸沿いに歩くと回りもカップルばかりなので、すごく自然にキスをした。遠くにヘリポートが見える。羽田に向かう飛行機が頭の上を通り過ぎていく。麻布のレストランで食事をした後、中目黒のラブホテルでセックスをした。 ![]() 非実力派宣言ライナーノーツ Paris/scenario 流行の音楽 超音速のナークツインズ・ライナーノーツ 禁猟区のナークツインズ・ライナーノーツ random notes |