■流行の音楽

-better than good music-

日曜日、東京は夜の7時にFMで…

Read it loud anytime at all

 「華氏32度」も完成真近となって、今更こんな前作「禁猟区のナークツインズ」のライナー・ノーツを作っているなんて。そんなだらしのない僕だけれど、最近のお気に入りの音楽のことなどを書いてみようと思っている。きょうは、Girl Girl Girlの話。
 Girl Girl Girlというのは、ピチカート・ファイヴの小西康陽、元パール兄弟の窪田晴男、コーザ・ノストラの桜井鉄太郎が作るFM横浜の日曜日のラジオ番組で、90年秋から2年ほど続いた。もう4年も前のことだ。
 この番組は月1回のリクエストの週以外は、すべて新曲か新録音の曲しか放送しないというとんでもない音楽番組で、一人当り最低週に3曲は作る必要があったらしい。その現実ばなれした話に、結構音楽業界では話題になったと聞いている。
 当時91年の1月から5カ月ほど仕事の都合で東京にいた僕は、Girl Girl Girlを聴くために番組が放送される日曜日の夜7時からの1時間はラジオから離れることはなかった。日曜日にあのテーマソングがラジオから流れるたびに踊っていたものだ。
 メンバー3人のファンだったという理由でGirl Girl Girlを聴いていたのは確かだが、それ以上に毎週新曲という無謀とも言える試みが気に入っていた。すごいと思うと同時に、こういった手法こそが今、最もクリエイティブなのだろうとも思っていた。そして今でも僕はそう思っている。「質より量」「消費されてしまう以上に作ってしまえばいい」「週間ペースで生産を続けるマンガというメディアに音楽は負けている」といったメンバーたちの当時の発言は、メンバー自身が今これこそがクリエイティブな行為だと認識をしていた証拠だろう。
 当時のナークツインズは「非実力派宣言」の製作中で、ほとんどそれまで原稿を書かなかった僕がすんなりと原稿を仕上げたのは、Girl Girl Girlのスピード感に影響されたおかげと言える。そして「非実力派宣言」の直後に作り上げた「レディメイドのナークツインズ」は、まさにマンガ、イラストにおけるGirl Girl Girlの手法の展開でしかなかった。「レディメイドのナークツインズ」を作っている時は、質より量、量より時間、短期間で作り上げることこそが質を生み出すと思っていた。
 「レディメイドのナークツインズ」のことはまた別に書くこともあるだろうから、ナークツインズの話はこれくらいにして、そのGirl Girl Girlが昨年の春、突然復活した。シングル「弾丸を噛め」、ミニアルバム「ガール・ガール・ガール・オム・ビス」の発売、冬には400曲あると言われるラジオ番組時代のセレクションCD「ガール・ガール・ガール集大成 野望編」と「集大成 煽動編」。そして今春には「集大成 純情編」、「集大成 至高編」そしてライブ「WILDNIGHT at SPEAKEASY」。しかも「集大成」以降は、Girl Girl Girlの3人が作ったレーベル「ワイルドジャンボ」からリリースされている。
 ベストアルバム的な「集大成 野望編」、ラジオならではの変な曲を中心にした「集大成 煽動編」、純愛もの、アンビエントものが多めの「集大成 純情編」、3人のルーツが全面に出た「集大成 至高編」。4枚の 「集大成」では、残念ながらオンエア時にあった疾走感や妙な緊張感は聴き取れなくなっているが、曲のクオリティは十分に楽しめる。FM時代からおなじみのテーマソングや、3人の自信作の「集大成 野望編」のラスト3曲もお気に入りだけど、僕のフェイバリットは、桜井鉄太郎がザ・フーをカバーした「恋のマジックアイ」かな。トッド・ラングレンやブライアン・ウィルソンの影響下にある極上のブリティッシュポップ。
 FMでは、50分間の番組で流れる曲すべてが同じテンポだった「テンポ90でGO!」なんて企画が放送されたりしたけれど、なんとかCD化されないものだろうか。とにかく今後も「集大成」のシリーズはリリースされるらしいので楽しみにしたい。なんて思っていたら、たったの半年で「ワイルドジャンボ」レーベルから7枚のレコードがリリースされてしまった。それでこそ質より量のGirl Girl Girlだろう。
 特に小西、桜井の本職であるピチカート・ファイヴやコーザ・ノストラが予定調和的すぎて面白くない僕には、Girl Girl Girlでの当時の3人のキレぶりは暴力的までに爽快なのだ。もう3人とも若くはないから、FMオンエア時のような勢いは期待できないけど、これからもかっこよくて変なものを作ってもらいたいもの。
 それからもうひとつ。昨年の復活第1段ミニアルバム「ガール・ガール・ガール・オム・ビス」は、小西康陽のひとつの詞に3人がそれぞれ別の曲を付けるという企画盤。さらにシングルはその曲の別バージョン2曲。もうこうなると内容以前に、Girl Girl Girlらしいとしか言いようがなくなる。なんてパンクなんだろう。
ナークツインズ 後藤

                          

the nurk twins choice of the coolest five in this month
1.「ライフ・サイズ・ロック」高浪敬太郎
2.早川義夫
3.「華氏32度」ナークツインズ
4.「ガール・ガール・ガール 集大成  至高編」ガール・ガール・ガール
5.「植木等的音楽」植木等

Girl Girl Girl・ディスコグラフィー

表記:タイトル(ミュージシャン,発売元CD番号,発売日)
GIRL GIRL GIRL (Girl Girl Girl, 東芝EMITOCP-6788, 91/7/26)
 ベイビー・ベイブリッジ (山根栄子 VS Girl Girl Girl, 東芝EMITODP-2303, 91/9/6)
 Kの手帖 (池田聡 VS Girl Girl Girl, テイチクTEDN-217, 92/5/21)
 天国のテレビ〜Remix(Ready made vs Girl Girl Girl)
  (アンナ・バナナ,SIXTY MUSICSXDR-104,93/2/3)
 弾丸を噛め (Girl Girl Girl Homme, キティKTDR-2074, 93/12/1)
 ガール・ガール・ガール・オム・ビス
  (Girl Girl Girl Homme, キティKTCR-1249, 94/2/25)
 ガール・ガール・ガール 集大成  野望編
  (Girl Girl Girl,徳間ジャパンTKCJ-70510, 94/10/21)
 ガール・ガール・ガール 集大成  煽動編
  (Girl Girl Girl,徳間ジャパンTKCJ-70548, 94/12/21)
 ガール・ガール・ガール 集大成  純情編
  (Girl Girl Girl,徳間ジャパンTKCJ-70593, 95/4/5)
 WILDNIGHT at SPEAKEASY (Wildjumbo “Great" Rhythm Section, 徳間ジャパンTKCJ-70594, 95/4/5)
 ガール・ガール・ガール 集大成  至高編
  (Girl Girl Girl,徳間ジャパンTKCJ-70628, 95/5/25)

10年後、僕は1995年11月のことを思い出すのだろうか?

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 1995年11月という年月は、歴史上では一体どんな月として記されるのだろう。教科書に残るようなたいした事件は何一つなかったと思う。なにしろ先月のことなのに、僕自身何も思い出せないくらいだから。ただし音楽のこととなると違ってくる。まあ、これだって僕だけのことだけど。
 人から見ればたいした話じゃない。僕の好きなミュージシャンのアルバムが沢山発売されたってだけのこと。ただし普通じゃないのは、10年ぶりとか20年ぶりとかいう形容詞が付くミュージシャンたちのアルバムが、今年の11月に集中して発売されたのだから不思議な話。おかげで妙に浮かれて、久しぶりに発売日にレコードを買いに行くなんてこともした。今回はそんなレコードを紹介しよう。
 まず最初に11月1日発売の、ピチカート・ファイブのソニー時代のベスト盤「Antique 96」。シングル1枚しかなかったソニー時代のベストアルバムっていうのもすごいが、それに続く全7枚の旧譜の再発売で出た、デビュー12インチ「the Audrey Hepburn Com- plex」とセカンド12インチ「Pizzicato V in Action!」の復刻が何といってもすごい。なにしろ「Pizzicato V in Action!」は、リーダーの小西康陽自身が「誰も知らないレコード」と言ったくらい売れなかったレコードなのから。当時僕も「the Audrey HepburnComplex」はレコード屋で見かけたけれど、「Pizzicato V in Action!」はどこを探しても見当たらずに廃盤間際に慌ててレコード屋に注文して買った記憶がある。もう10年近く前の話。
 そんな12インチレコードが再発されるくらいだから、やっぱり売れるということは良いことなのだろう。ここまでやるなら佐々木麻美子さんのヴォーカル時代に企画されていた幻のサード12インチも、ついでに発表してほしかったが。発表されていれば、「ロンドン−パリ」「ヴァカンス」「男の子はみんな」などの佐々木ヴァージョンが収録されたはずだ。
 それから今回の大量再発には「Antique 96」に別の曲のタイトルが印刷されるミスで、CDの即時回収・再発というお騒がせのおまけまでが付いてきた。本当に賑やかなことだ。
 そしてピチカートと同じ11月1日に発売されたのが、ロジャー・ニコルズの「Be Gen- tle With My Heart」。なんと27年ぶりのセカンドアルバム。
 今や渋谷系のマストアイテムらしいファーストを、7年前だったか驚異の再発と言われて(当時再び廃盤になったら値上がり必至とまで言われていた)聴いたときの、あの新鮮な驚きは今でも忘れられない。アメリカン・ポップスに対する認識がいっぺんに変わってしまった大切な一枚。
 今度のセカンドは27年前のあのヴォーカルや曲と同じはずもないが、その上品さは今も健在。ファーストの幻を追うのではなく、セカンドだけで考えてみれば、上質のポップスであることに変わりはない。古い友人からの不意のプレゼントみたいなものだから、休日の朝にでもゆっくり聴くのがふさわしいだろう。
 続く11月10日には、ブライアン・ウィルソン&ヴァン・ダイク・パークスの「Orange Crate Art」。ビーチ・ボーイズの伝説の「スマイル」セッションから28年ぶりのコラボレーション(正確にはこの間に1度だけシングルを共作したことがあるが)。
 「スマイル」の失敗によりブライアンが、精神障害を起こして未だ完全に回復していないことは有名で、今作はブライアンがヴォーカルだけ担当したためか、思いのほか制作はすんなりいったようだ。
 このアルバムは、「スマイル」のコラボレーション云々よりも、ブライアンのヴォーカルをフューチャーしたパークスのソロアルバムと言うのが正解なのだが、やはりこの二人が組むと独特のものが出来てしまうのだ。ブライアンの声で、パークスのアメリカンミュージックに力強いけれど、どこかもろく崩れてしまうような手触りが出る。ブライアン=ビーチ・ボーイズの超名曲「Surf's Up」に通じるような感触。
 いつも聴いていたいわけではないが、どうしても聴きたくなる時がある、「Orange CrateArt」は僕にとってそんなレコードだろうか。そして最後に11月22日に発売されたのが、皆さんご存じビートルズの「Anthology 1」。発売日にはニュースになったりもしたが、中身はほとんどが完成前の別テイクだとか、現存する最古の演奏だとか、考古学的なものばかりなので、バカ売れしていると聞くと何だか複雑な気分になってしまう。もしオリジナルアルバムも知らずに「Anthology 1」を聴いてる人がいるなら止めたほうがいい。それは最悪な聴き方だ。
 でも赤盤、青盤か「Past Masters」だけを聴いて、「Live At BBC」「Anthology 1」を聴く若い人って、やっぱりいそうで何となく悲しくなる。ビートルズマニアの僕でも「An-thology 1」は、そんなに何回も聞き込むアルバムじゃない。
 ただ別格なのは、何と言っても25年ぶりの新曲の「Free As A Bird」。まさか生きているうちにビートルズの新曲を聴けるとは、何年か前には想像も出来なかった。生きていれば良いこともあるものだ。
 これをビートルズと認めるかどうかは人それぞれだろうけど、僕は全面的に認める。出来はビートルズのベストと呼べるほどじゃないが、それでもチャートを賑わしている他の音楽とは比べれられないほどのクオリティがある。
 「Free As A Bird」のイントロ、リンゴ・スターが叩くドラムの音を聴いただけで、これがビートルズの新曲だということが分かってしまう。それほどビートルズの音というのは、あの4人でしか出せない音なのだ。
 僕はビートルズの音楽のことを60年代にかけられた特上の魔法だと思っているのだけど、解散から25年後のテクノロジーを使って 「Free As A Bird」ともう1曲の新曲「RealLove」というたったの2曲だけ魔法を復活させることができたと感じている。
 今度のプロジェクトは、ポール・マッカートニーが中心になったのだろうが、ポールはどうしてもこの仕事をやりたかったに違いないと僕には思えてならない。  自分たちの若き日の思い出と自分たちが作ってしまった幻影に別れを告げるためにやり残したこと。それは死ぬまでに必ずやっておかなければならないこと。長い時間が過ぎて、それに気がついたのだろう。だからこそこの1995年にもう一度だけ魔法を起こすことができた。そんな気がする。
 とにかく世間の評価がどうなるにせよ、僕はしばらくの間この曲を聴き続けることになるだろう。他のビートルズナンバーと同じように接することが出来るようになるまでは。
 1995年11月。何年も先、1995年11月に買ったレコードを僕はまだ聴き続けているのだろうか。そして1995年11月のことを思い出すのだろうか。それは分からない。誰にも未来のことは分からない。Tomorrow Never Knows.
ナークツインズ 後藤


   僕はいつも面白くて何か新しい音楽を求めている

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 流行の音楽と言っても、最近はめっきり音楽を聴く時間が減っているのだが、それでも相変わらずレコード・CDはバカ買いしたりする癖は残っていて大変である。
 実は余り書きたくなかったのだが、「超音速」の号なので書かないわけにはいかないだろう。今回はビートルズの話。
 「ロンドン・ヤー・ブルース」で判るように、僕も世界中に何万人といるビートルズ・マニアの一人である。グッズを集めるタイプではなくて、曲の別テイク・ライブバージョンなどを聴きたがるタイプなので、なかなかレア盤や海賊盤への出費が大変だったりする。 そこへ昨年以来のビートルズの「アンソロジー」シリーズの発売である。いやこんなに発売を待ちこがれたのは久しぶりのこと。たとえ中身の半分が、海賊盤で既に聴いたことがあったとしてもだ。
 6枚分のCDと約10時間分のビデオが約1年間かけて発売され、最近ようやく最後のビデオの発売が終わった。何といっても目玉は再結成の新曲2曲だったが、僕は大好きで今でもよく聴いている。
 多分皆と違っているのは、2曲目の「Real Love」の方が好きなことだろう。あの曲の質感はビートルズにしか出せないもので、昔のやり方に従ってジョン・レノンの声をあえて変えているところなどは、まるで60年代の音のようである。それにも増してこの曲は詞が美しい。ここ数年聴いた音楽の中ではダントツの出来だ。簡単な言葉で美しく紡ぐということは最も難しいことだと思うのだが、ここにはそれがある。
 6枚のCDに収録された大量の未発表曲やレアテイクは、6枚としてはかなり満足できる内容で、プロデューサー、ジョージ・マーティンの愛情を感じさせる作品となっている。マーティンのコンセプトは、一つのバンドの始まりから終わりのドキュメンタリーを作ることだったと思う。
 だが聴き手としては、まだ大量にあるはずのレアテイクを更に聴いてみたいと思わせる、罪作りな作品でもある。CDに収録されたレベルの作品をすべて収録しようとすれば、さらにCD6枚分は必要だろう。例えば「アンソロジー3」に収録されたジョージ・ハリスン宅でのデモは、収録の7曲以外にも20曲もあるのだ。残りは聴きたくないなんて言えるわけが無い。墓泥棒と同じと言われるのは判ってはいるのだが、また海賊盤を探さなければならないのだろうか。
 ビデオに至っては、10時間あってもほとんど収録されていないという感覚になる編集なのだ。それでも初めて見る「Paperback Writer」と「Rain」の素晴らしさには仰天しましたが。まあ、こんなのは単なるマニアのたわごとですけれど。
 「超音速」をビートルズ再結成記念に発行したのは「超音速」のあとがきにも書いたけれど、これまでのナークツインズの活動にもビートルズが関係したりしている。
 90年3月にポール・マッカートニーの初来日公演で僕が東京にいた時に「非実力派宣言」の制作が決まったのだ。そして「レディメイド」の締め切りが、なぜ91年12月の初めだったのか。それは12月6日から来日公演中のジョージ・ハリスンの追っかけをすることになっていたために、それ以後まったく時間が無かったからである。その時広島ではジョージに偶然会ってサインをもらえたのは、思いがけなく嬉しい想い出でした。
 実を言えば、91年の「超音速」や「レディメイド」制作当時のBGMは、ビートルズではなかった。当時のヘビー・ローテーションは、フリッパーズ・ギターの「ヘッド博士の世界塔」だった。僕はいつも面白くて何か新しい音楽を求めている。そしてそんな音楽が見当たらなくなると、かつてのフェイバリットばかりを聴き始める。その中心になるのビートルズだ。周りにつまらない音楽しか聞こえなくなると、ビートルズを聴くことが多くなる。
 当時はビートルズを聴く必要のないほど、面白いものが沢山出てきていた。最近はそんなことも無くなり、「アンソロジー」の回数が多くなる始末である。つまらないものしかないのか、僕が年を取って新しいものが分からなくなったのか。たぶん後者だろうが、それでも構わないと最近は思い始めている。なにしろ僕は、これから生きていくにも充分なほど、沢山のフェイバリットを見つけているのだから。
ナークツインズ 後藤


ビートルズ・アンソロジープロジェクト・ディスコグラフィー

 ANTHOLOGY 1 / CD,東芝EMI TOCP-8701~8702,95/11/22
 ANTHOLOGY 2 / CD,東芝EMI TOCP-8703~8704,96/3/18
 ANTHOLOGY 3 / CD,東芝EMI TOCP-8705~8706,96/10/30
 Free As A Bird / CD,東芝EMI TOCP-8715,96/1/1
 Real Love / CD,東芝EMI TOCP-8716,96/3/27
 ANTHOLOGY 1,2 / VIDEO,東芝EMI TOVW-3241~3242,96/9/5
 ANTHOLOGY 3,4 / VIDEO, 東芝EMI TOVW-3243~3244,96/10/9
 ANTHOLOGY 5,6 / VIDEO, 東芝EMI TOVW-3245~3246,96/11/13
 ANTHOLOGY 7,8 / VIDEO, 東芝EMI TOVW-3247~3248,96/12/11

 いったいどうした!
今回のテーマはなんとアニメだ!

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 2年ほど前、とあるアニメにハマった。今ではほとんどアニメを見ないこの僕がアニメにハマるなんて、かれこれ10年ぶりのことだ。ナークツインズがこんな状態でこんな原稿も何なのだが、書かずにはいられないので書いてしまおう。2年前にハマったアニメとは皆さんご存じのエヴァンゲリオンではない。「ちゃお」連載、やぶうち優原作の「水色時代」だ。
 1996年4月から97年2月までテレビ東京系列で放送されたこのアニメに出会ったのは、単なるの偶然だった。
 当時会社で定時に仕事を終えられる部署に異動した僕は、帰宅するといつのまにか普段見ない6時からのテレビ東京のアニメを流し見するようになっていた。特に見たいわけではないが、昔よくアニメを見ていたこともあって、なんとなく見ていただけだった。そんな番組の中で、いつしか心に留まるようになっていたのが、この「水色時代」だ。
 当時ほとんどアニメを見る機会のなかった僕にとっては、本当に偶然のたまものだと言っていい。仕事が忙しくなれば家に帰ってアニメを見るなんてことはなくなってしまうし、たとえ見たとしてもほとんど面白いと思わないからすぐに忘れてしまう。最近唯一、真面目に見たのは「カウボーイビバップ」ぐらいですか。
 「水色時代」は主人公優子を中心とした中学生活を描いたもので、地味と言われても仕方がないような内容だったから、残念ながらウケはあまり良くなかったようだ。放送終了後ビデオ化されないところを見ると、多分そうなのだろう。
 まあ王道とも言える内容なのでそれは分からなくもないが、僕に言わせるとそれがまたよいのだ。誰でも感じていたはずの学生時代の淡い恋や友情の感覚。それを迷いながらも真っ直ぐに表現していく登場人物たち。僕にもアニメほど美しい思い出ではなかったけれど、遠い昔にあった思春期の思い出。それを思い出させる。
 原作では主人公優子の視点で描かれているけれど、アニメでは登場人物それぞれが主人公となり描かれることで、より物語としての広がりを見せることになった。そして原作になかったギャグをアクセントとして加えることで、原作とはまた違った味わいになっている。
 このあたりの演出については、監督のときたひろこ氏と脚本の武上純希氏の手腕が大きいと思うのだが、武上氏については過去の作品で正直余り評価していなかったので、僕にとっては「水色時代」で一気に株を上げたという感じでした。
 「水色時代」のテレビ版には相当な思い入れのある僕だが、文句がないわけではない。と言うか、どうしても言っておきたいことがある。後番組の都合だか知らないが、実際には38話「あの頃のように」で終わっているのに、その後「思い出アルバム」という再放送のような番組を8話を放送して、きれいに終われなかった。(再放送かどうかは番組を途中から見ているので僕には不明)
 特に38話があまりにいい出来だっただけに、その後お茶を濁すような構成になってしまったことは本当に残念と言うしかない。もし38話が最終回の1話前の話で、最終回が原作近い内容だったとしたら最高だったのですが。これだけはかえすがえすも残念だった。
 ではタイトルにそぐわないように音楽の話もしよう。実を言うと「水色時代」で最初に心に引っかかったのは、番組後半からエンディングテーマに使われた「約束はAlright!」だった。
 YAG PDという女の子3人組が歌う歌。テレビではサビのみを繰り返すだけで、合唱というよりはほとんど応援歌といった風情なのだが、これがまたよいのだ。希望に満ちあふれた歌詞を屈託なく繰り返す。番組にあまりにも似合いな歌声。僕の琴線には触れすぎるくらい触れてしまう。素直に傑作と言ってしまおう。皆で体操するエンディングアニメーションにもマッチしてました。
 それから番組終了後発売されたBGM集 「水色時代 メモリアル・ミュージック・コレクション」。番組が何だか不本意な形で終わって物足りない気分だったときに、思いがけないプレゼントをもらった感覚だった。ただCDの帯に「水色時代の卒業アルバムです」と書かれていたのは、これが最後のCDだと言っているようで、寂しい気にもなったけれど。
 このCDの聴き物はボーナストラックのブラスバンドシーン用音楽だと思う。なんということもないサウンドトラックだが、ストーリーを知っていればその音の場面・意味を思い出す。ファンにとってはとても重要な音楽。それがサウンドトラックという音楽の本来の価値だということを再認識させれられてしまう。
 僕は今も「水色時代」が大好きだけれど、結局「水色時代」のテレビシリーズ全話をまだ見ていない。なんとか見たいと思っていたのだが、なんとCSテレビのAT−Xで知らないうちに再放送されてしまっていた。おかげで今はディレクTVのチューナーを買って、再々放送されるのを待っている日々である。
 こんなことをやっている自分にあきれつつも、まだそんな思いに駆られることもあるのかと自分に感心もしてしまう。どちらにしてもそんな気分にしてくれた「水色時代」製作スタッフと「水色時代」に出会わせてくれた偶然に感謝するほかはない。
ナークツインズ 後藤


sophisticated lady

水色時代・ディスコグラフィー

  • ・シングルCD
  • 水色時代(米屋純)C/W あの頃のように(鈴木真仁)
  • (日本コロムビアCODC-938, 96/5/21)
  • 約束はAlright!C/W 恋をしようよ(YAG PD)
  • (日本コロムビアCODC-1058, 96/10/19)

  • ・CD
  • 水色時代 キャラクター・ソング・コレクション Present
  • (日本コロムビアCOCC-13575, 96/7/20)         
  • ミュージカル 水色時代
  • (日本コロムビアCOCC-13981, 96/12/21)
  • 水色時代 メモリアル・ミュージック・コレクション
  • (日本コロムビアCOCC-14451, 97/8/21)

  • ・CD-ROM 
  • まるごと水色時代
  • (インナーブレインIB96034, Windows, 96/?,同タイトルの簡易バージョンもあり)
  the nurk twins choice of the coolest five in this month
1.考えるヒット/近田春夫
2.月面賛歌/ムーンライダーズ
3.水色時代 メモリアル・ミュージック・コレクション
4.筒美京平
5.夢のクレヨン王国
           
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