禁猟区のナークツインズ;解説
「禁猟区のナークツインズ」は、プロデューサー後藤が初めて機能した本だと言っていい。ナークツインズにとって僕はプロデューサー後藤であり、メンバーの一人松本淳でもあったのだが、「禁猟区のナークツインズ」までプロデューサーらしい働きはほとんどしてはいなかった。
ナークツインズの一冊目「非実力派宣言」と二冊目の「最新型のナークツインズ」は、僕は自分の原稿を渡しただけだったし、三冊目の「レディメイドのナークツインズ」は、すべて僕一人で作ったので、実際のところプロデュースという第三者的作業を行なう必要もなかった。それに当時(1991年)の僕は西崎から対等な相棒とも、一人前のプロデューサーとしても認められていなかったので、西崎のやることに口をはさめる状態でもなかったのだ。
その後、四冊目として「超音速のナークツインズ」という本が93年夏に予定されていたが、これは完成しなかった。見事に失敗した。ある程度の原稿は書いていたが、残念ながら完成はしなかった。
原稿を書かない西崎に「超音速」ではプロデューサーとしてのやりたいことを思う存分にやってみようとしていた。だか感覚優先の作家西崎と、理論の積み上げで作っていくプロデューサー後藤の本質が衝突したことで全く前に進めなくなってしまったのだ。そしてその結果西崎はプレッシャーで絵が描けなくなるという事態にまでなってしまった。「超音速」での僕のやり方は当時の西崎には無理だったということだし、僕は西崎をコントロールできるほどの腕のプロデューサーではなかったということだ。つまり両方とも負けたわけだ。
そこで「超音速」は中止して、「禁猟区のナークツインズ」を制作することになる。目標は「きちんとしたポルノグラフィーを作ること」。
それまでもポルノグラフィーをナークツインズが作ることは考えないわけではなかったが、僕自身にかなりの抵抗があった。ポルノグラフィーを作ること自体に抵抗があるわけではない。けれどももともと好き勝手にやりたくて同人誌をやっているのだから、金儲けを目当てにエロ漫画を作って客に媚を売るようなことはしたくはなかったし、ポルノ関係のイラストや漫画の仕事もしている西崎に、今更同人誌にまでポルノを描かせても仕方がないと思っていた。だがもう一方では、意地を張って最初からポルノという手段を放棄することは、下らなくて無意味なことのようにも思えていた。
そういう混在した気分をふっきるには「禁猟区のナークツインズ」はちょうどいい機会になった。とにかく「超音速」は失敗して、ナークツインズを解散するか、わだかまりを捨てて次の一手を考えるかをしなければならなかったのだ。そして結局僕はナークツインズを辞めてただのサラリーマンに戻ることを選ばずに、別の作品を作ることを選び、それを西崎に提案した。内容はポルノグラフィーで、小説と漫画で一つのストーリーとして成立する作品を。
ポルノグラフィーを選んだのは、描こうとする焦点が絞りやすくなるからだ。「超音速」の失敗で西崎は一枚の絵を描くのにも時間がかかる状態だったので、どんなものを描くのか目標を明解にしておけば、少しは西崎も描きやすくなるだろうと思ったのだ。なにしろ「禁猟区のナークツインズ」のストーリーは、女子高性を強姦するというだけでしかない。なんて簡単明解な話。あとナークツインズがポルノグラフィーを作るのなら一体どんなふうになるのだろうか、それを自分自身で確かめてみたくなった。それが理由だ。
そして「禁猟区のナークツインズ」を小説と漫画に分けたのは、ナークツインズが二人だということの外部へのアピールでもあり、作業分担をはっきりさせればプレッシャーで絵の描けなくなった西崎への配慮であり、ナークツインズが二人だということの外部へのアピールでもあった。何しろそれまでのナークツインズでは、松本の名前を外部に出すことがあまりにもなさ過ぎた。それによってナークツインズの二人の関係が、悪化したのも事実だったからだ。
当時のナークツインズでは、締め切りだとか、編集だとかいう順序を立てていく余裕はなかったので、とにかくコピー誌でも何でもいいから「禁猟区のナークツインズ」は、短期間で作ってしまいたかったのだが、実際の制作作業は簡単には行かなかった。制作とはそんなに甘いものではないということだ。小説には一ヶ月も要しなかったが、西崎の不調は予想以上で漫画の完成には半年近くかかり、本の発行は94年4月になってしまった。
制作過程では西崎にはとにかく普通のポルノグラフィーを描かせようと思っていた。作り始めて分かったのだが、西崎は好き勝手に描くとポルノグラフィーとは違うものを描き始めてしまうのだ。ポルノ雑誌で仕事をしていながら、困ったことにポルノは苦手というのである。何年も生業にしながら、今更苦手と言うのだから驚くほかない。このへんの認識不足もプロデューサーの力量不足のせいと言ってしまえばそれまでだが。
そんなことで西崎にとっては、絵が描けないほどの不調、苦手のポルノグラフィーと悪条件(僕がこんな状態にしたのだが)が重なり、結局のところ僕があらゆる面に手を出さざるを得なくなってしまった。台割りからコンテを切ってデザインまですべて共同作業となった。
プロデューサーは統括者であり、いかに良い物を作り、いかに売れる物を作るかを考えるのが役割であると思っているので、共同作業は決してプロデューサーの守備範囲ではないと思う。だが必要ならば全部やるのが統括者たるプロデューサーの仕事でもあろう。ただこのあたりの作業は、プロデューサーの仕事なのかライター松本淳の仕事なのかはよく分からない。当人である僕がプロデューサーとライターを明確に区別できないのだから、読者にはプロデューサーの役割は分かりにくいものだろうとは思う。
だがこれまでの三冊ではできなかったが、松本淳と西崎まりのが共同作業で作っていくことはナークツインズ開始当初からの僕の希望だった。僕は一人では何もできないし、一人でできることなんてやるつもりもない。だからこそナークツインズでは、すべて二人の共作としてクレジットしてある。どちらがどこを書いたなんてどこにも書いていない。実際「禁猟区のナークツインズ」では、一人だけで作ったところなんてほとんどないのだし。ただ結果的には「禁猟区のナークツインズ」が二人で小説と漫画をそれぞれ持ち寄って作ったように見えるし、実際皆さん勘違いしたようなので、それはそれで仕方がないことだとは思う。
西崎の絵に関しては、絵の持つ特質をきちんと魅力として紙に定着させるよう注意したつもりだ。これまでの西崎の絵とは少し違っていることに気がついただろうか。僕もいろいろ細かいところまで口を出してしまった。しかしそれこそがナークツインズの絵なのだ。
ライターの松本に関しては僕はあまり興味がない。もちろん自分自身のことなのだが、単に物を書くというレベルでは、創作意欲がほとんどないという人間なので、自分でも自分にはたいした期待はしていない。書くからにはきちんとしたものを書きたいとは思うのだが、書くことが楽しいと思ったことがあまりない人間なので。読者には申し訳ないが、この「禁猟区のナークツインズ」も他に書く人がいないので、とにかく書かなければ仕方がないと思ったから書いたという程度のものだ。
だがこんな僕でも、ナークツインズのこととなると話が変わってくる。僕がプロデューサーとして何かできるのはナークツインズだけだし、ナークツインズが作るものを僕は気に入っている。それはあくまでナークツインズという複合体であり、そこに僕自身が原稿を書く必要性なんてものは無い。
逆に西崎が絵を描くだけの役割に甘んじる必要も無い。彼はこれまで一人でずっとやってきて単行本(註:「美熱少女」白夜書房(現コアマガジン社)刊/絶版)まで出したことがあるのだから、文章が書けないはずも無いのだし。とにかく作り始める前から絵を描くのが役割で、ただひたすら描いていればいいなんて決めるのは僕にとって面白くも何ともないことだ。彼が得意とすることは彼が書けばいいだけ。その結果そこに松本でも西崎でもない世界があれば、もっと面白い物になると思っているはずだ。それが僕にとってのナークツインズ。
「禁猟区のナークツインズ」で一つだけ例を上げてみよう。巻頭の詞「Fe/Co-君は僕のもの-」は、かつて「非実力派宣言」制作時に松本が「Fe/Co」のタイトルで作った詞だったが、「非実力派宣言」には不似合いだという理由でいったん没にしたものだった。その後使えそうなので引っ張り出したのだが、「禁猟区のナークツインズ」よりべたついた内容だったので、西崎が「Fe/Co」を解体・再構成し「Fe/Co-君は僕のもの-」を作った。だがこれも完成した物ではなかったので、再度松本が追加・再構成をして、当初の「Fe/Co」とは大幅に異なる「Fe/Co‐君は僕のもの-」が完成した。
他の所もだいたいこんな調子だ。時間がかかるのは難点だが、やっている方にとっては面白い。かつての西崎まりのファンには申し訳ないが、ナークツインズをやっている限り、かつての西崎まりの作品とは違うものにならざるを得ない。そのあたりは、かつての西崎まりのの方が好きというファンの人には諦めてもらうしかない。(註:別に諦めなくてもいいです、昔の作品を漁ってください。ex.まりのより。)二人とも今のところ、一人でやるよりもナークツインズでやることを気に入っているからね。ただナークツインズが、かつての西崎まりのを解体・再構成するのは面白いかもしれない。そんなこともいつかやってみたいものだ。他にもやることがあるので、時間があればの話だが。
プロデューサー/ライター ナークツインズ 後藤
(テキストデータが手元にないので、若干言い回しを変えた部分もあるけれど、これがプロダクションノートに書かれた公式のライナーノーツ。で、代わりに何が手元にあるのかというと以下に掲載されたGO2が書いたNG稿の断片である。ライナーノーツだけでも、これだけ練り直して書き上げているのだ。折角のWEBページなので、あえて載せることにした。ナークツインズの作業過程がよくわかると思う。)
- ここまでが「禁猟区のナークツインズ」でのプロデューサーの仕事だった。もちろんこの後の制作過程でもプロデューサー的なことはしたし、絵やデザインにかなり口を出した。絵やデザインをトータライズしようとチェックしていくとどうしても演出の部分に口をはさまざるを得なくなってしまう。それはプロデューサーとして仕事の一つだと思う。
- だが僕はナークツインズのメンバー松本淳でもある。これ以降はほとんど西崎との共同作業になっていったので、松本としての感覚を優先させて作っている。だからここまでが今回のプロデューサーとしての仕事だと言えるだろう。
- 一からの出直しになった今回の制作では、僕と西崎は今までの三作とは全く違ったやり方で進めていった。それは全ての面でお互いの意志を反映させていく本当の意味での共同作業。
- だから「禁猟区のナークツインズ」でもコンテかなりの部分の書き直しをしたし、もし他でプロデュースすることがあったとしても多分同じことをしているはずだ。
- 最初からきちんとバランスがとれたものが出来上がってくれば何もする必要はないのだが、全てがそんなにうまく行くはずもない。もともと何人かの漫画原稿を集めて一冊の本にするだけのことなんて、面白いと思っていないわけだからそれは仕方のないことなのだろう。
ただ「禁猟区のナークツインズ」の場合、プロデューサーとしてチェックする以上に演出の部分に関わっている。
- 「プロデュース」という作業は一般的にマンガでは有り得ないものだろうし、その概念は人それぞれであろうが、ナークツインズでは音楽制作におけるプロデューサーに近い作業を行なっている。映画で言えば、プロデューサーだけではなく監督としての作業も一部含まれるだろう。
- 当初は「超音速のナークツインズ」というタイトルの本を作る予定だった。
はっきり言ってポルノグラフィというものがよくわからない。これは最近気がついたことなのだけれども僕自身はポルノというものが描けないようなのだ。もちろんアダルトビデオもそれなりに見たことはある。裏ビデオもある。それなりに興奮もする。だけど女の子の裸を見ることができる以上のことは何も面白くないのだ。つまりグラビア写真のヌードを見る以上の興奮がないわけである。他人のセックスを見るよりは自分がセックスをした方がいい。当たり前だがつまりそういうことなのだ。そしてこれも当たり前のことだがポルノをつまらないと思っている人間がポルノを描けるはずはないのである。ましてマンガと言われても困るだけだ。ペラペラの紙きれに描かれた女の子に対して欲情しろと言われてもただそれだけでは無理なのだ。個人的な嗜好をここで公開するような露悪趣味はないが、とにかく普通のノーマルなセックスだとかポルノグラフィに対する興味は全くない。おかげで禁猟区のコンテ作りはすごく難航した。最終的に決定稿が出来るまで、いったい何度リテイクを繰り返したことか。もっともこれは僕個人の問題として絵が全然描けない時期の直後であったせいもある。相変わらずプロデューサーや共作者にとっては迷惑な存在だ。それでもおかげさまで何とか一冊の本としてまとめることが出来たのはパートナーの力量である。僕は絵を描くということ以外は無能なのだ。そして絵を描くことさえも満足に出来ない。だけどナークツインズという共作ユニットでならそれなりのことは何とかやっていけそうである。それで西崎まりのという作者の存在をこの禁猟区の完成を機会にして抹消することになったのだ。一人の作家が死んで新しい作家が生まれたと思って貰えればいい。ナークツインズはかっこいいよ。
事情説明はこれくらいにして少しだけ内容に触れておくとスタンダードなポルノグラフィを作るというだけなので解説するほどのことはあまりない。ただキャラクターは最初個人的な趣味で昔の薬師丸ひろ子みたいに描こうとしていたのだけれど、これも途中までペン入れしていたにもかかわらずリテイクを出されたので現在のボーイッシュなショートカットの女の子に変わった。モデルは内田有紀である、似てないけど。お気に入りなのは「Fe/Co−君は僕のもの−」に付けたイラスト。それとローソンで買ってきたパックの牛乳とパンを食べさせるシーンはすごくエロティックで好きなんだけど、読者にとってはどうでもいいんだろうね。最後に資料として使わせていただいたものを書いておくけれど、これもどうでもいいものだよね。まあいいけど、一応参考までに。
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